なぜジョブ型人事制度が求められるのか?
2022/06/13 10:06
昨今メディアでも話題の「ジョブ型」、人事領域においてホットトピックになっているワードだが、その内容や理解はどれほど必要なのか?また、外国人採用におけるキーワードとも言えるのは何故なのか?その理由を紐解きます。
ジョブ型人事制度ブームの到来
なぜ、ジョブ型人事制度が注目されているのか?
まず、それは現在の日本企業の背景に理由があります。
2000年代初頭から成果主義による片鱗は見えていたのですが、より顕著になってきたのは2010年代に入ってからと言えます。その理由は、「日本企業のグローバル化」。この時期は、グローバルサプライチェーン構築が進み、製造拠点を海外に移す企業が増加しており、海外での売上比率も上昇し始めておりました。
もちろん国内に活路を見出す企業もありましたが、多くの企業が日本からそう遠くない中国・アジア市場が急成長しており、それらを放っておくこともなく、海外市場での成長に活路を見出そうとする企業が多くありました。筆者も中国勤務時に多くの在中日系企業を訪問しており、中国やアジアへの成長戦略を持っている企業が大半でした。
ただ、そうなると人材採用や本社からの駐在員赴任なども進み、人事制度のローカル化とグローバル水準の設定が必要となり始めます。いわゆる「グローバル・グレード」制度の導入です。
これは簡単にいうと、人事評価を世界共通にしようというもので、人事異動やインセンティブなどに世界共通の指標を組み込むというものです。いずれ本社に戻る日本人駐在員だけであれば不要になっていたかもしれませんが、海外での売上比率を高めていこうとすると、どうしても現地社員の活躍抜きでは語れなくなります。
しかし、そういった現地ローカル社員は家族やコミュニティを大事にする方も多く、日本人のように単身赴任による異動はそう易々と受け入れません。またキャリアの明示も必要になりますし、報酬体系なども異なってくるので、共通指標を求める声は大きくなりました。
また、あるアジアの国のように、CPI(消費者物価指数)が年率3%水準で上昇し、給与の上昇幅も大きく年率10%前後上昇する企業が多くある場合、この30年間大きく成長していない日本市場の評価基準とはギャップが大きくなってしまいます。つまりローカルの成長性と本社の成長性が一致しないので、本社の給与テーブルや評価基準を当てはめるのは無理がある状態でした。
そこでグローバルグレードの登場となります。
ジョブ型人事制度に日本企業が注目する理由
理由は会社ごとの経営戦略や方針にも付随しますが、従来のメンバーシップ型(職能型)人事制度では、変化の激しいグローバル市場環境に適応しにくくなっていることが主な理由となっており、その他にもプロパー主体の人材構成になるメンバーシップ型では日本国内を含めた市場競争における競争力を高められないことや、人材獲得面において、給与テーブルを逸脱した採用ができないため、外部から優秀な人材や高度外国人を採用できないことも理由となっています。
特に外国人の母国になる海外では、圧倒的に「ジョブ型(職務型)」が標準であり、日本だけが特異な職能型になっているため、外国人の組織適合に課題がある点も付随要件として重要になっています。
現在の日本社会は、デジタル庁創設に見られるようにコロナ禍を通して、世界的に見てもデジタル分野の遅れが指摘されました。特に、欧米、中国、台湾、東南アジア各国と比較してもデジタルへの概念や規制から遅れが指摘されています。
これらを改善する一つの方法として、デジタル人材の採用、育成が急務となっていますが、ただでさえ高い日本語力という障壁に加えて、日本の商習慣や礼儀作法があり、その上で旧来の人事制度があるため、優秀な外国人には給与水準もそんなに高くない日本でそれらの障壁を乗り越えてまで働く魅力を訴求できなくなっています。
そのため、グローバル価値基準での給与設定ができて、プロパー社員が持たない特別なスキルや実績を持つ人材を獲得しやすくするために、ジョブ型人事制度は機能すると考えらています。もちろん、コロナ禍によるリモートワークの増加による従来の管理手法が難しくなった事によるジョブ型導入も影響している要素です。
とはいえ、急激なジョブ型シフトは難しいですから、当面はハイブリッド型を目指すか、またはジョブ型にしないと採用できない職種を持つ企業は別法人化し、人事制度をそこだけジョブ型人事制度にするかなど法人を分けたグループ内のハイブリッド化を目指す方向になると思われます。
いずれにしても、まだジョブ型人事制度は草創期。人事運用を繰り返したトライアンドエラーの先に、その企業にあった人事制度が出現してくると感じております。